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主にWEB小説

少年少女向けSF冒険小説『タイム・ウォール』

 

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今回はタイムトラベルSFの紹介である。

これは第二次世界大戦の引き金になったある人物の暗殺をもし成功させていたら……という筋書き。その顛末をテレビ放映するという設定の有り様、雰囲気はレトロな感触がして大人や中高生にもおすすめしたい作品だ。

 

本作の特徴は徹底的な歴史考証である。決して子供だましではない緻密な歴史考証のうえで展開される物語には説得力とリアリティがある。

 

中編ほどのボリュームなので、隙間時間にいかがだろうか?

コルヌトピア

ウェブ小説のコンテストがあり、ずっと応募作を読んでいる。応募作の総数は500を超えている。そろそろ給油というか休憩を挟みたい。好きなものの話をする。決めた。

今回取り上げるのは津久井五月「コルヌトピア」である。

 

まずは一般的な評価などを説明する。

この作品は第5回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作である。

人類は、植物のメカニズムを情報記録媒体として活用する技術〈フロラ〉を生み出した。2084年、23区全体を環状に取り囲む森林ベルトによって世界でも群を抜いて先進的な都市となった東京で、フロラ管理企業に勤める若者・砂山淵彦の巡り合う事件を描く。(SFマガジン2017年12月号)

選評では、

・植物サイバーパンクとでも呼ぶべき世界観は実に魅力的。(略)世界観の壮大さに比べ、物語があまりに小さいのだ。(東浩紀

・文章が端正で読み心地が良い。(小川一水

・描写される巨大な植物構造帯や未来建築物のイメージも素晴らしい。画家や映像作家の想像力を刺激するだろう。(神林長平

と評されている。

さらに一般的な声を拾いたい方は、読書メーターなどを活用するといいと思う。

 

では私はどんなところが好きかと言うと、

前世紀の青い抽象画の一部を接写したかのように、窓ごしの空は妙な光り方をしていて、東の方から、うっすらと明るくなってきている。

青く濡れたようなベッドから起き上がり、カーテンを開けた。

東の低い空が燃えている。青と赤の、キッチュにも思えるグラデーションを、〈角〉を通して捉える。僕の根の広がりが東の地平線を手探りする。炎のイメージが、舌の先に疼くように現象する。(コルヌトピア、13ページ)

私は言葉というものは伝達以外にも意味があると思っている。言葉の取り扱いがもたらす美しい気分とでも言おうか。これが津久井の作品では充実しているのだ。

 

都市のリアリティ

「コルヌトピア」の魅力で第一に挙げられるのは2084年の東京の姿である。緑に覆われた東京の姿は有機的なモチーフとなって優しく世界を形作る。

この都市自体が計画された事情は、

都心南部直下地震が起こったのは、二〇四九年。(略)その後の復興過程を通じてグリーンベルトは建設された。(コルヌトピア、29ページ)

だと劇中で言われている。

ところで震災の復興過程で都市計画が策定されることは決して珍しくはない。

1923年の関東大震災後、後藤新平によって震災復興計画が立案され、現在の東京の姿の骨格を形作っている。こうした都市計画の歴史に根差した視点で描かれた世界には説得力がある。

またコルヌトピアの構想では1939年の東京緑地計画がモデルになっているという話だ。

 

キャラクターの機微

コルヌトピアは前述したとおり、物語の小ささがよく問題に挙がる。果たしてそれは本当なのだろうか。私はそうは思わなかった。

繊細で時にナイーブとも取れるキャラクター達、彼らが掴もうとした未来はどんなエンタメ作品よりも胸に深く響いた。彼らの挫折や彼らが触れ合おうと努力した時間を愛おしいと思う。

「じゃあ、アビーが東京の謎の答えを見つけて、俺が金を稼いだらさ――ふたりでその、気持ちいい場所を探しに行こう」

そういってツグミは、気のいい笑顔を僕に見せた。

「――そうだね。約束だ」(コルヌトピア、91ページ)

終わりに

コルヌトピアは言葉のイメージ喚起力、キャラクターの関係性、説得力ある舞台。これらが集まって素晴らしい作品になっている。津久井月氏の次回作にも期待したい。

 

それがぼくらのアドレセンス

 

間がしばらく空いてしまった。

 

先日、第10回ハヤカワSFコンテストの締切が終わった。3月31日のことである。

ハヤカワSFコンテストは個人的に追っていた時代もあるし、無謀ながら応募をしたこともある、思い出深いコンテストである。

 

このコンテストは小川哲、草野原々、樋口恭介など綺羅星の如き新人たちを輩出している。

web小説を見ていると、時折コンテストの応募作を発見することがある。箸にも棒にも掛からなかった作品、残念ながら一歩及ばずだった作品など事情は様々だろう。「それがぼくらのアドレセンス」もそのひとつである。

 

S‐Fマガジンの選評で読んだ「それがぼくらのアドレセンス」。当時の印象はあまりよくなかったことを覚えている。ラストが悪いだの、SFの根本的な考え方がわかっていないだの、様々な批判がそこでは述べられていた。*1

 

「ああ、このパターンはよくあるやつ」と私はS-Fマガジンを閉じた。遠い世界の話だ。この作品には出会うことはないだろう。そんなふうに思っていたのだ。

 

そのころ、TwitterでハヤカワSFコンテストを検索してみたとき、夏になっても浮かれている人々、つまりは最終候補に残れた者たちなのだが、彼らはどんな顔をしているだろうか。毎年のことながら、ハヤカワSFコンテストに残る人というのは強烈な顔ぶれが多く、人間博覧会と私なんかは思っているフシがある。なのでどんな人間が残ったのか興味はあった。

 

酒田青の第一印象は小さい鼠だった。*2

並居る強豪(?)作家のなかのあいだから酒田青はちょろちょろと出てきた。なんか方向性が違う新人が出てきた(!)のだ。

 

話をもとの軌道に戻す。

そうして本を閉じられ、忘れ去られるはずだった「それがぼくらのアドレセンス」がカクヨムに掲載された。いや、ネット上に姿を現した。

 

kakuyomu.jp

 

早速読み始めた。

克明な心理描写、残酷な展開、キャラ造形、驚くべきストーリーなど面白い点を上げればキリがない。レベル……と唸ってしまう。SFにもしも中高生向けのレーベルがあったら活字で読めたかも、と空想をしてしまうほどである。

 

あまりベタ褒めしても仕方ない。

 

春が始まり、終わって、また夏が来る。

夏が来たら、ハヤカワSFコンテストどうなっているだろうな?

 

 

*1:ただそれでも最終候補作に残れた作品なのだ。

*2:酒田氏のプロフィール画像を参照のこと。

貸し本棚、あるいはランキングシステムは人間を幸福にするか?

すこし思うことがあって、貸し本棚というサイトのβ版に登録してみた。

www.kashi-hondana.com

思うところというのは、小説投稿サイトのランキングとか評価とかの諸々に少し疲れを感じ始めていたからである。すこしここで休憩しておこう、そんな気分で登録してみた。このサイト、すこし過激なことが書いてあるところが面白い。引用してみよう。

貸し本棚は、作品にポイントやランキングを与えません。UUはおろか、PVすら表示しないのです。 それらの数字によって、あなたの作品を評価することはありません。

これらの数値はほとんどの投稿サイトに用意され、どこかに自分の作品を投稿する以上、 その種の戦いを免れることはできません。 「私は戦わない」と高らかに宣言しても、順位付けされる投稿サイトの中で、その清貧を保つことはおそらく不可能でしょう。 PVが表示された時点で、他の作品と比較され、弱いものはより弱く、強いものがより強くなる評価資本主義の大波に呑まれます。 この物差しは、評価カーストのピラミッドの頂点に位置する一握りのグループの栄光と、生き馬の目を抜く出版編集者のために用意されています。 多くの作者と読者のために作られたシステムではありません。

 資本主義がどうたらと言う議論はとても古典的というか、こんなこと今時いう人っていたのかという驚きに溢れている。*1

なんであれ気になるサイトだ。

*1:それでも資本主義というシステムから逃れられないとしても、だ

ジェダイは傲慢?

 

ちょっと気になったtweetだったので乗せる。この意見、わりと受容されているようで、ちょっと意外だった。ep4からep6までしか見ていないが、ジェダイ=善の勢力という認識でしかなかったからだ。

 

tweetの引用リツイートで「ジェダイは仏教」という視点は面白い。これを父に話すと、ジェダイ小乗仏教なのだという。小乗仏教とは簡単に言うと、現代の仏教が大乗仏教でその対になる考え方だ。個人的な解脱が目的とか、ウィキペディアにはあるので、仏教に詳しくなりたい方はそちらを参照されたい。

 

善とか悪とかは、ジェダイの暗黒面があるから善なのだ、という甘い考え方であってジェダイは宗教勢力のようなものなのだろうか。ある種の僧兵たちなのか。*1

どこかで善の研究という本があって、西田幾多郎とは関係ない本だったと思うが、善というのは、論理性の正しさと、美しさと、あとなにか(思い出せなくて申し訳ないが)のなかに見出されるという。

 

そうやってジェダイを捉え直すと、ジェダイって結構過激でパルパティーンを殺すことに何の論理性はないわけだったり、美しさもないって見方もできるわけだ。

 

ルーカスはキャンベルの「神話の力」を読んで、スターウォーズの脚本を書いた。善も悪もおそらくこの神話のなかに見出される。神話のなかの人々に現代的な視点を持ち込むことはそうすべきことなのか、そうであらざるべきか。

 

*1:そこはミステリーとして、神秘性の世界として捉えておいた方がいいかもしれない。

イデア・ワン

WEB小説を紹介するブログ。そう銘打っておいて、三作目でネタが尽きた。自作のことを書こう。私は普段、カクヨムでWEB小説を書いている。短編が多い。最も人の心を掴んだ作品を紹介する。

kakuyomu.jp

 

機械がアイデアを考えてくれる世界で、会社員のぼくは息子にもその機械を買い与える。ところが、事態は思わぬ方向へ進んでいくという話。

 

テーマは「思考とかアイデアとかって人間にとっていらなくない?」みたいなことを考えていたと思う。2019年のことなのでほとんど覚えていないのだが。

 

これ実はゲンロン大森望SF創作講座第1期の第5回のテーマ「テーマを作って理を通す」の課題に自分なりに答えたものだ。

school.genron.co.jp

でもいま見るとぜんぜん理が通ってないので、改稿してアニマ・ソラリスに送った。気になる人は次号で読んでほしい。

www.sf-fantasy.com

 

余談だが、この間、YouTubeにこの小説のCMをアップロードした。

www.youtube.com

死者人形

wired.jp

きょう紹介するのは「死者人形」である。私は完全に押井守イノセンスガイノイドのイメージで読んだ。死者を模したモノに確かに感じる人の痕跡。それは人の仄暗い面や攻撃性だ。それを丁寧に紡いだ作品。hontoから星新一賞受賞作品集をダウンロードして読める。

honto.jp